どんな経歴だって、お金に変わる可能性を秘めている

私が現在いただいている仕事の中に、音声起こしのお仕事があります。いわゆる「テープ起こし」、録音された音声を文字にしていく仕事です。

ライターなら誰でも、自身が行った取材やインタビューの録音音声を起こし、それを元に完成原稿に仕立てる、という作業はしていると思います。

しかし、私がこの案件でお引き受けしているのは音声起こしのみです。音声起こしという仕事は、それだけを専門にしている人も多くいます。ライターを名乗る人間が音声起こしだけを引き受けるのは、ちょっとイレギュラーな例だと思います。

なぜ、私がこの案件を引き受けることになったのか。

その経緯の中に、独立して仕事をしていく上での、ちょっとしたヒントがあるように思いました。

「頼める人がいない」ある日届いた仕事依頼

ある日、登録していたクラウドソーシングサイト上に、美術専門出版社の編集部の方からメッセージが届きました。

音声起こしをお願いしたいという内容のあとに、「美術の専門用語が頻出するため、どうしても依頼できる方が限られます」とあります。

文面からは、発注先がなかなか見つからずにいる様子が窺えました。

私はそのサイトのプロフィールに、美術を(2回目に行った)大学で学んだこと、音声起こしも受注可能ということを記載していました。

それを見てメッセージをくださったようで、何度かやりとりさせていただいた上で、お仕事をお引き受けすることになったのです。

いただいた録音データは、美術公募展の講評音声でした。確かに、絵画技法や美術評論に関する用語が多く出てきます。

例えば…

モニュマン性 ムーブマン ドンゴロス F型 などなど。

私が学んだのは主に美術史であって、制作をしていたわけではないので、技法に関する用語の知識は薄いです。しかし、上記のように引っかかる言葉が出てきた際に、「これは多分それ系な用語だな」と見当をつけることはできます。それさえできれば、あとはちょっと調べればいい話なので、原稿に穴を開けることはありません。

それはやはり、系統立てて美術を学んだ経験がなければ難しいんじゃないかなと感じました。

音声起こしはクラウドワーカーにとってはけっこう人気案件のようで、たとえ時間単価がかなり低くても、募集中の案件には常に複数のワーカーが手を挙げている状態です。

このクライアントも、オープンで募集すればきっと、それなりの数のワーカーが集まったでしょう。

でもそのやり方では、私のような(と、あえて書かせていただきますが^^;)専門性を持つワーカーには出会えなかったと思います。

自分がニッチの側に立つなんて

自分が登録しているクラウドソーシングサイトの中で、美術を学んだ経験がありそうな人を試しに検索してみました。

「美術」で検索すると200人以上ヒットしますが、ほとんどがデザイン・イラスト関連です。

「美大」と「芸大」では、合わせて50人弱。こちらも、ライター系は数名でした。

そのサイトでは、現在100万人以上のワーカーが登録しているようです。その中で、美術を学んだ経歴を明記しているライター、かつテープ起こしもすると記載しているライターは、実は私ひとりだったりするのかも…しれません。

また、音声起こしを請け負う業者も多くありますが、専門分野でもお任せ!として例に挙げられているのは、医療や裁判資料、教育、社会問題、または外国語対応などです。

ニッチな存在として重宝される人というのは、何かもっと独特な才能なり経歴なりを持っている人で、私には縁がないと思っていました。こうした形で仕事を依頼してくれ、喜んでくれるクライアントが現れたのは、私には不思議にも思えることでした。

自分のすべてが資産。何が活きるかわからない

私が2つの大学で学んできた音楽や美術は、俗に言う「食えない」分野です。「男子は音大に行かせるな」なんて言い方もあります。

それはライティングの世界でも例外ではなく、まあ、自分から探したとしてそんな案件が見つかったらラッキーかな、くらいに思っていたのです。

ただ、食えない経歴と思いながらも、大学で音楽と美術を学んだことはプロフィールとして公開していました。

それを見つけて、仕事を依頼したいと思った方がいたということです。

多分その方にとっては、私の編集者や記者としての経歴の詳細よりも、「美術の知識がある」ということが重要であったのでしょう。

何が活きるかわからない。どんな経歴や経験も、自分のリソースとしてオープンにすることの大切さを思いました。

退学や転職回数の多さだって、100円で昼食を済ませる日々の経験だって…きっと巡り巡って仕事の種になるのでしょう(笑)